いつもと変わらない月曜日のはずだった…

そのはずだったのだ…

職場につくまでは…

 

悪夢の始まり月曜日

 

先週終わらなかった入力作業を終わらせて、新しく入った本の受け入れ作業をするつもりだったのだけれど・・・

今目の前にいる男に仕事を邪魔されてまったく進んでいない

いや一番の問題は何でこの男がここに居るのか?ということだろう

「どうした?俺の顔を忘れたか?」

忘れることが出来るなら今すぐにでも忘れたい!そう言いかけたが飲み込んだ沈黙を守ることが一番無難だ

「小松先生?お知り合いですか?」

校内案内のため付いてきているらしい職員の存在をはそこで始めて認識した

「小松・・先生?」

「ああ、今日赴任したばっかの新米助教授だ」

「助・・教授・・」

「これからよろしくな!図書館のおねーさん!」

ニヤリと意地悪く笑うと何か言いたげな職員を引きずるようにして図書館を出ていった

さん知り合いなの?今の先生?」

職場の仲間が興味津々といったように尋ねてくるがはまったく聞いていなかった

「助教授・・あの男が・・」

さん?」

呆然として何事か呟いているに周りの人間が大丈夫かといった視線を投げる。

しばらく固まったままだったは次の瞬間踵を返すと事務所の奥にいる一番偉い上司に

「どーゆーことなんですかぁぁぁぁ!!!!」

と素晴らしい大声で噛みついた・・

<図書館では静かに!!>と書かれた紙が掲示板から悲しげに剥がれ落ちていった・・

 

「だからな俺も詳しいことは知らないんだよ・・」

のあまりの迫力に上司もタジタジでとりあえず自分の知っていることを教えた。この図書館では上下関係があまりというか殆ど機能していない・・上司といっても気軽に話しかけることが出来るし、上司のほうも気軽に下の者に話しかけるのだ。話題は上司の娘さんがどーしたとか、どこのラーメン屋がおいしいとかいった仕事とはまったく関係ないことだったりする・・まあ要するにアットホームな職場と考えてもらってよろしいかと。

「つまり上層部で何かがあってあの男が助教授としてやって来たと?建築学部の先生は足りていたでしょう!!」

「俺に聞くなよ・・・」

あの男・・・小松尚隆はこの大学の建築学部建築デザイン学科の助教授となっていた。

これが4月ならまだ納得しよう!いろいろな人事移動のある時期だから・・しかし今は5月の終わりだ。しかも建築学部の教授・助教授の数は足りていたはず!それなのに!!どーゆー卑怯な手段を使ったのか分からない(というより知りたくないが)あの男はしっかりとこの大学の助教授といった肩書きを手に入れているのだ。

「なんで・・・こんなことが・・・」

?知り合いなのか?」

「いえまったく!これっぽっちも!!知りません!!」

「そっそうか・・・」

あまりの迫力にそれ以上の追求は誰も出来なかった・・・

 

「お疲れさまです〜!」

「こんにちは〜」

午後4時になるとバイト生がやって来る。この図書館は蔵書数のわりに職員数が少ないため学生や先生達から返却された本の配架などの簡単な作業にアルバイトの学生を使っている。毎日2人づつ入るようにローテーションが組んである。

「お疲れさまで・・す・・・」

「・・・なんかあったんですか?」

いつものように職員に挨拶していたバイト生はに挨拶しようとして止まった

明らかに不機嫌オーラを全身から漲らせて親の敵のように凄まじいスピードと力でパソコンキーボード乱打しているのだ

バイト生など眼中にもない・・・

「あ〜今のさんには話しかけないほうが身のためかも」

「はあ?」

よくわからないといった表情を浮かべたバイト生だったがとりあえず自分達の仕事に影響が出なければいいか、と言っていつも通りに自分達に割り振られた仕事に取りかかった。

このままならば嵐は過ぎ去っていたのだ・・たぶん・・

午後5時を過ぎて職員の大半が帰り支度を始めた。図書館の開館時間が午後8時までとなっているので達下っ端は午前と午後の勤務に分かれている。達下っ端3人組以外職員は毎日朝8時30分から午後5時までが勤務だ。達は午前の勤務帯は朝8時30分から午後2時30分まで、午後の勤務帯は午後2時から閉館までとなっている。ちなみにバイト生も閉館までだ。は一週間のうち火曜日を除く残りの曜日全てを午後の勤務にしている。そそくさと他の職員達が帰り残っているのは遅番(午後からの勤務帯をこう呼ぶ、午前は早番)のと同僚、そしてバイト生だけになったとき、その一言がの耳に入ってきた。

「そーだ!今日新しい先生が来たんだよ」

「ああ、お前建築だったっけ?」

「そーそービックリしちまった」

「かなりイイ男なんだって?女子が騒いでたぞ」

「確かになイイ線いってるとは思う、授業もおもしろそうなではあるな」

「名前なんてんだ?」

「えーと確か小松・・・だったかな?」

「あ〜その話題は今はしないほーがいいかも・・・」

バイト生の話題がやばいモノであることを察した同僚の忠告は少しばかり遅かったようだ

どっんっっっ!!!

机を叩き割るような音がして全員が一斉に音の発生源に目を向けるとフラリと椅子から立ち上がるいた。どうやら両手で思いっきり机を叩いたようだ・・筆立てが横倒しになって中身が散乱している・・

「二人ともそんなくっっっだらないこと話す暇があるんだ・・」

にっこりと作り笑いを張り付かせた顔でがことさらゆっくり話しかける

今までこの程度の話題でが怒ったことはなかった、それどころか楽しそうに話に入ってきていた。だが今のは確実に怒っている

「そんなに暇なら資料室の掃除をやってもらおうかな?」

資料室・・夏は猛暑で冬は極寒という埃とカビ臭い狭い部屋だ。古い資料が多いため中々掃除出来なくて困っていたのだ。

たまにネズミやゴキブリそして得体のしれない虫が出ることがある・・・

「行って来る?」

あくまで疑問系だが拒否できない強さのある一言だった

「行って来ます・・・」

哀れバイト生二人は泣く泣く資料室の掃除へと追いやられていった・・・

「えーっとお茶でも煎れようか?」

「あと30分で閉館だけど」

「ああ!そうだね・・」

この同僚も相当びびっていた・・・無理もないが・・・

しばらくボーっと外を見ていたがいきなり

「ねぇ・・・」

「なっなに!」

「私が仕事辞めたら困る?」

「はい?」

「いや、だからこの職場辞めたら困るかな〜と思って」

「こっ困るに決まってるでしょ!!私達の中で一番の古株がなに言ってるの!!あなたにしか出来ない仕事が山のようにあるのよ!!」

「それはそうなんだけどね・・・」

「それに司書の資格を取るには図書館に勤めていたほうが有利なんでしょ?」

「うーんそれは確かに・・・でもな〜」

「今日赴任してきた小松先生絡み?」

「……………」

「図星か。これでもあんたより年上なんでねその辺はわかるのよ。今まで辞めたいなんて言ったことなかったのに急に言い出すんだもん」

あれだけあからさまな態度なら誰だってわかるのではないだろうか・・

「一つしか違わないじゃない」

「ともかく!!辞めるなんて絶対駄目!図書館のためにも!!」

「ふぁーい」

しぶしぶは気のない返事をした

「いい!駄目だからね!」

「はいはい分かりました」

「よし!ならバイト生を呼び戻して閉館準備と行きますか」

「らじゃ〜」

よたよたとが閉館のため事務所を出ていった。その後ろ姿を見送りながらこれはそーとー根深い何かがあったな〜と考えた同僚は深い溜息をついてバイト生を呼び戻すため館内放送に手を伸ばした。

 

「戸締まりよし!電気よし!鍵もオッケー。ではお疲れさまでした」

「お疲れさまでした〜」

「お疲れ〜」

本気で脱力しているを引きずるようにして二人は駐車場に向かった。途中で守衛さんに鍵を渡したのだがあまりにも疲れ切ったに何かあったのかと思われたようだ・・

「ちょっと〜大丈夫?」

「ん〜元気よ〜ちょっと脱力してるけど・・」

「まあ、風邪とかじゃないからいいけど」

「そーだねとりあえず寝たら治るか・・も・・」

?」

隣りを歩いていたが突然立ち止まり前方を凝視している。その視線の先にいたのは、立派な高級車にもたれている・・・

「小松先生」

話題の小松尚隆だった・・・

「二人ともお疲れさん!こんな遅くまで図書館やってるとはな」

「小松先生こそ・・・ってさん!!」

「じゃ!私は帰るんで」

そそくさと尚隆から遠ざかるようにしては自分の車に駆け寄った

「折角待ってた俺には一言の挨拶もなしか?

「残念ながら人違いじゃありませんか。小松先生」

それだけを言い残すとさっさと車に乗り込んだ。そのやり取りを見ていた同僚もそーっと自分の車に乗り込む。

「明日から毎日お前に会えるんだ。今日は大人しくしておいてやろう」

今まで大人しくしていたことなんてあるのか!!と怒鳴りつけたくなるのを必死で押さえ込むとはやや乱暴にエンジンをかけ車を発進させた。チラリとも尚隆の方を見ることなくの車は駐車場を後にした。

「明日が楽しみだな。

遠ざかるテールランプの光を見ながら尚隆は一人含み笑いを浮かべた

 

 

 

尚隆が悪人のようだ・・・




 

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