私はあの人のことを知らないでいた

いいえ、知りたくなかったのかもしれない

知ったところで私とあの人の世界は変わらないから

だから知らずにいた

知ることから逃げていた

けれどその代償は予想以上に大きかった




身勝手すぎる金曜日




突然、帰ってきた娘に母はやっぱり驚いた顔をしたが、何も言わずに迎え入れてくれた

理由を聞くでもなくただ、しょうがないわね、という顔をして

その優しさに泣きそうになりながら私は自分の部屋に閉じこもった

きっとひどい顔をしているだろう、母が私に気を使うほどの

泣くつもりはなかった、大学を辞めたことに後悔してないといえば嘘になるが、私の精神的に最上の選択だと思っているから

それなのに、ベッドに倒れこんで全身の力を抜くと何故だが涙が溢れてきた

「なんで泣くかな〜」

枕に顔を押し付けて、ポツリと独り言をもらす

脳裏に浮かぶのは尚隆の姿ばかりで



あのね、尚隆

本当はね

本当は、私すごく嬉しかったの

あれから2年もたっているけど

私もあなたも変わったのだろうけど

それでも、私を追いかけてくれたことが

本当はすごく、泣きたいぐらい嬉しかったの

あなたに名前を呼ばれるたびにドキドキして

バカみたいに緊張して

そして思い出すの

2年前のあの日を

だから離れるの

私とあなたは違う世界の人間だから

私達は出会ってはいけなかったの

もう、あんな思いはしたくないの

私は強い人間じゃないもの・・・・・



いつのまにか時間は過ぎていき、弟も父も帰ってきていた

父も驚いた顔をしてみせたけど、何も聞かないでいてくれた

弟にいたっては全てを知っているから説明の必要はない

笑みを作るのに苦労したけれど

その日は久々に家族揃った、表面上は和やかな夕食だった

ゆっくりお風呂に入り、両親と弟の気遣わしげな視線から逃げるように、早々に部屋に戻る


現実逃避だな、と思いながらもやることは眠る以外になくて
結局、また眠る
けれど、深い眠りは訪れなくて

何度も、何度も、目が覚める

夢を見ているわけでもないのに

自然と目が覚めて

そしてまた、浅い眠りに引き込まれる

その繰り返しに、いい加減うんざりしてきたのと

もうすぐ夜が明けるという時間になってきたので

仕方なく起きることにした

家族は当然のごとくまだ眠っていて

久々だし、朝食でも作ろうかなと思考を切り替える

何かやってたほうが嫌なことを考えなくてすむもの

服に着替えて、足音を忍ばせて部屋を出る

まず、新聞を取ろうかな。この時間ならもう配達されているだろうし

サンダルをひっかけてそっと玄関を開ける

うっすらと明るくなろうとする町並みと人のいない静寂にそっと深呼吸をする


ポストに向かって歩きだした私の視界にそれが入って固まった

黒塗りの立派な高級自動車

このあたりではまずお目にかかることはない

そんな車に心当たりがありすぎて硬直する

心拍数の跳ね上がった心臓を落ち着けるように新聞に手を伸ばす

その指先が自分で意識していないのに小さく震えていることに気付く

落ち着かせるように深呼吸して、ぎゅっと手を握り

あらためて新聞を取ろうと指先を伸ばした

「ずいぶん朝早いんだな」

「っつ!!」

あと数cmで新聞に届くという腕は背後から伸びてきた手につかまれ

驚きのあまり叫び声を上げそうになった口も同じように背後から塞がれた

「俺を怒らせるなと言っただろう。

耳元で囁かれるその台詞は私から力を奪うにはじゅうぶんすぎるほどの威力を持っていた

「俺と一緒に来るんだ、

口に当てられた手はそのままに引きずられるようにして車に押し込められる

「出せ」

「何を・・・」

口からでかかった文句は途中で途切れた

尚隆の静かなけれど厳しい視線がそれ以上言葉を発することをやめさせる


恐い


それが、今の尚隆だった

本能的に恐怖を感じ、自然と尚隆から離れる

狭い車中で逃げ場などないけれど

それでも、今の尚隆からは出来るかぎり離れていたかった

必死に意識を尚隆ではなく車外の景色に向ける


やがて車は静かにあるホテルの地下駐車場に滑り込んだ

尚隆は私の手首を痛いくらいに掴むと

引きずるようにしてホテルへと入っていった

ピリピリと肌を刺すような緊張をお互いに持ったまま一言も口をきかない

少なくとも私はきけないでいた

誰にも会うこともなく連れてこられたのは最上階のスイートルーム

尚隆の歩幅についていくのに精一杯で私は軽く息が上がっていた

そんな私に目を細めると尚隆はいきなり私を担ぎあげた

「やっ!!!なにを!!」

まるで荷物のように肩に担ぎ上げられる

暴れようとした矢先に本当に荷物のように投げ出された

衝撃に一瞬息が詰まったが、柔らかな感触に痛みはなく、自分がキングサイズのベッドに投げ出されたことがわかった

すぐに尚隆の手が伸びて私は無駄だとわかっていても背を向けて逃げようとした

けれど抵抗むなしく、尚隆は機械的に嫌がる私から服を剥ぎ取った

下着姿にさせられた私は恐怖よりも怒りのほうが強くて泣きそうになった

しかし、尚隆はそれ以上私に何かすることはなく

押さえつけていた腕を放し私から離れた

私はとりあえずシーツを身体にまいた

尚隆は床に散らばった私の服をかき集めると、どこか勝ち誇ったような表情で

「その格好ならここから出て行くことはできないだろう」

その一言に血の気が引いた

「・・・かえして」

「なんだ?」

「私の服を返してよ!!」

尚隆が手にしている自分の服に必死で手を伸ばす

「いらないだろう?こんなもの」

尚隆は笑いながら手にしていた私の服を力任せに引き裂いた

布のちぎれていく音はこんなにも嫌な音がするものだっただろうか

唖然としているうちに、私が着ていた服は

服だったもの、もはやただの布の切れ端でしかなくなっていた


私の知らない尚隆がいる

私の知っている尚隆はこんなことをする人じゃなかった

「あなた・・・・誰・・・・」

震える声でそう尋ねれば

「俺か?俺は小松尚隆だよ」

彼は口元を歪めるようにして笑うと

「お前には見せないようにしてきたのに」

ずいっと尚隆が私のほうに身を乗り出し

私はビクっと反射的に身をこわばらせた

「ほらな、お前が恐がるだろうと思ったからな」


私の知らない尚隆

必死で抑えているのだろうけど、全身から怒りを滲ませている

でも、私が脅える理由はそれじゃないの


私は恐かった

再びあの時と同じようになるのではないかと

2年前のあの日を忘れたことはなかった

忘れられなかった

一度付けられた傷は簡単に血を流し

再び私を追い詰める

だから私は脅えているのだ

これ以上、尚隆に関わってしまったら

きっとまた同じことを繰り返す

そしてまた、私は傷つくのだろう

きっと前よりも深い傷を負うことになる

たぶん、もう立ち直れないぐらいの深い深い傷を

だからお願い、私に触れないで

これ以上、私に関わらないで、優しくしないで

あの時の私が知ることのなかった


新しいあなたなんて今の私に見せないで!!


「お前が俺から逃げるからだ。お前を手に入れるためなら何だってする」

尚隆はすっと脅える私に顔を近づけて

「例えお前の家族、友人、お前を知る全ての人間を殺してでもな」

上がるはずだった悲鳴は喉に張り付いた


身動きできないでいる私の額に尚隆はそっとキスを落とす

驚きと恐怖と

たぶんあまり眠れていないことも重なり

私は簡単に意識を手放した

闇に沈む寸前

「お前は俺のものだ、誰にも渡さない」

尚隆のそんな言葉を聞いたような気がした









言い訳

うっわ〜尚隆さん暴走しまくりだわ・・・

まあ、私の中の尚隆像はこんなもんです。黒いです。

すいません、カッコいい尚隆をお求めの方

うちの尚隆さんヒロインさん手に入れるためなら手段選びません。持ちうる限りの権力も金も力も全て使います。

書いといてなんですが、読んでくださる方々思いっきり引くんじゃないでしょうか?

うち一応激甘サイトなんで終わりはハッピーエンドですので・・・(すっげー信憑性ないけど)




 

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