まったくもってその通りで

反論する術さえ私にはなく

ただ延々と聴き続けるという行為は

かなり精神的にも肉体的にも辛いものがある

例えそれが私の身を案じた弟の忠告という名の文句だったとしても




平穏望む日曜日




散々だった・・・・もうホントにそれしか言いようがなかった

金曜日の夜から私は全てにおいて運というものに見放されているんじゃないかと思ったぐらいだ

あの人から逃れるようにしてアパートに戻った私には

弟になぜ彼と一緒にいたのかということを詳細に説明することに始まり

すべからく彼との間には何もなかったということを納得してもらうという

出来ることなら遠慮したいことが待っていた

しつこいまでの弟の忠告を唯々諾々と頷き返し、私は半ば追い出すようにして弟を実家に帰し

日付も変わろうかというその時刻にようやくゆっくりとした一人の時間を手に入れることができた

自分の許容範囲以上に色々なこと起こり、しかもそれが一度にやってきたため

私の頭は飽和状態。フラフラとシャワーを浴びるとすぐさま布団にもぐりこんだ

実のところ夢を見るのさえ怖かった

また、あの人が出てくるんじゃないかと・・・・

けれど必要以上に疲労していた精神と肉体は私に夢を見る暇さえ与えなかった

私は日曜日の昼過ぎまで、ひたすら眠り続けたのだ


その間

弟と彼が会っていたことなど知ることもなく







「これだけは処理しとけって言っただろうっがっっっ!!!」

「しょーがないだろーが。色々とあったんだから」

「あのなぁ!これは明日の重役会議に出さなきゃいけないんだぞ!!お前の承認印すらなくて出せるわけないだろーっっがっっ!!」

「無駄ですよ帷湍。今更でしょう」

朱衡がなだめているのかけしかているのか分からない口調で帷湍を落ち着かせる

「サインするだけなら今すぐにでもしてやる。それより朱衡、例の件わかったか?」

その鋭い眼差しに朱衡はおや?という顔をしてみせたがすぐに何もなかったかのように

「ええ、かなり巧妙に隠していたようですが」

朱衡はいくつかの書類を差し出しながら

「お尋ねの件に関して是か非かと問われれば是ですね」

尚隆は軽く頷きながらも書類から目を離そうとはしない

段々と険しくなっていくその表情に朱衡も帷湍も見て見ぬふりをすることにした

今、必死になって追いかけている彼女がらみなことは明白であり

非常に詳細に突っ込みたいところではあるのだが

こうなった場合の尚隆は扱いづらい上に下手につついてとばっちりがこちらにきては大迷惑

それでなくとも予定では決裁済みのはずの書類が未決裁なのだから

投げ捨てるように書類を机に置いた尚隆は椅子に力なくその身を預けると

「ホントに間抜けだな俺は・・・」

自嘲気味にそう呟いて低く微かに笑った

帷湍も朱衡もどう声をかけていいものか分からず、目の前に広げられた書類に集中することにのみ神経を尖らせた

室内に響く音は帷湍と朱衡が書類をめくる音と時々小さく交わされる言葉のみ

その静けさを破るように、尚隆の机上の電話が鳴った

まったく動く気配のない尚隆に変わって朱衡が電話に手をのばす

「はい・・・・ああ、お久しぶりですね」

その口調と言葉遣いで大体の人間の予想がついた。そもそもここの番号を知っている人間自体が限られているのだ

「ええ、おりますよ。今、代わります」

相手が誰とも言わずに朱衡は受話器を尚隆に渡す

「なんだ?お前がここに電話してくるなんぞ始めてだな」

<好きでしてんじゃねーよ>

尚隆はスピーカーにして受話器を置いた、持つ気もないらしい

<祐がどーしてもお前に会いたいってゆーから仕方なく連絡したんだよ>

「祐?」

誰だそれ?と言いそうになって尚隆は昨日、鉢合わせた彼女の弟のことだと思い出した

<今から出てこれるか?近くの公園にいるんだけど>

「すぐ行く、そこを動くなよ」

六太の頭の中には仕事に追われて外に出ることすら出来ないという尚隆は最初っから存在すらしていなかったようで、尚隆のほうでも自分が未決裁の書類に追われているという概念は持ち合わせていなかったようだ・・・・・

「ちょっと出てくる」

それだけ言い置いて慌てて出て行く尚隆の後姿を帷湍と朱衡はため息交じりに見送った

この未決裁の書類の山をどーするんだっっ!!と言いたいところなのだがそんなもん聞くよーな人間ではないし、なによりあの六太がわざわざここにまで電話をかけて呼び出したのだからよほどのことだろう

ゴーイングマイウェイ人間なくせにカリスマ性と決断力にすぐれ少なくとも企業家としては超がつく一流である上司と長年の付き合いである帷湍と朱衡は

とりあえず企業経営に支障をきたさなければ良いと、ある意味大変間違った許容のしかたをしている

「明日の監査業務」

「では私は明後日の企画会議を」

第三者がいたならば一体なんの話だ?と首を傾げること確実な述語だけの会話

「どっちに賭ける?俺はなおさら凹んでくるに賭けるな」

「私も同じですねぇ。これでは賭けになりません」

優秀な部下でもあり友人でもあるこの二人は今飛び出していった男を賭けの対象にしていたのだ

賭けられたものが相当なものだということはこのさい聞かなかったことにするのが無難だろう・・・・・








「お〜来た来た。すっげ〜全速力じゃん」

六太のどこかおどけたような声にも祐はピクリとも反応しなかった、固く指を組みこちらに向かって走ってくる男を凝視していた

「待たせたか?」

息を整えながらそう尋ねるものの尚隆の視線は六太ではなくその隣に立つ祐に注がれていた

「んにゃそれほどでも」

六太がヘラっと笑いながらそう返し、隣で微動だにしない祐をつつく

一つ大きく息を吐くと祐は静かに

「これ以上、姉に近づくのはやめてください」

きっぱりとした口調で言い放った、それに対し尚隆も

「それはできない。第一、お前には関係ない。これは俺との問題だ」

予想していた答えだったのだろう、祐は深呼吸しながら地面に視線を向け

「・・・・一年かかったんです」

「はっ?」

いきなり何を言い出したのかわからず尚隆は怪訝な顔をした

「今、姉は笑っているでしょう?あなたの前じゃどうかしりませんけど」

「・・・ああ、確かにな。俺の前じゃ絶対に笑わないが」

脳裏に浮かぶのは他人に笑いかける彼女。自分には向けられることのない笑み

苦笑しながら何かを思い出すような尚隆の表情に祐は怒りを滲ませた声音で

「笑えるようになるまで一年かかったんです」

その衝撃的な一言に尚隆が信じられないという目を向けた

「今だって昔の・・・・あなたに出会う前のようには笑えない。それでも何とか表面上は笑えるようになった」

キッと尚隆を下から睨みつけると

「ようやく!ようやく、忘れることができたのに!!なんで今頃また現れたんだよ!!」

「・・・・すまない」

何を言われても今の尚隆にはその一言しか言えなかった

「あんたがいなくなってねーちゃんがどれだけ傷ついたと思ってんだ!!」

怒りが爆発したのか先ほどまでの丁寧語もきれいさっぱり吹き飛んでいる

「やっと・・・やっと立ち直れるとこまできたのに。頼むからこれ以上ねーちゃんに近づかないでくれ」

「・・・・本当にすまん、だがそれは出来ないんだ。俺にとってあいつ以上に必要な人間はいない」

その一言に成り行きをハラハラしながら見守っていた六太がギョッとした表情を見せた

「なにが必要な人間だ!!!」

拳を握り締めていた祐はポケットから古びた封筒を取り出し思いっきり尚隆に投げつけた

「っつ!」

とっさに上げた腕に当たって地面に落ちた封筒から数枚の一万円札が飛び出した

「じゃあなんであの時、こんなもん渡したんだよ!!!なんで一緒に連れて行かなかったんだ!!!」

「これは・・・・」

地面に落ちたそれを呆然と見つめる尚隆に

「ねーちゃんは嫌だって、受け取らないって言ってたけど、それを持ってきた奴が受け取らなきゃあんたに迷惑がかかるから受け取れって。ねーちゃん最後まで嫌がってた、あんたとの思い出を売るみたいで嫌だって。だけどしょうがなくて・・・・」

「・・・・手切れ金というわけか」

尚隆はゆっくりとかがんで地面に散らばった紙幣と茶封筒を手に取った、正確にはわからないが二百万から三百万といったところか

「それホントは捨ててやろうと思ってた、だけどねーちゃん時々すごく懐かしそうにそれを見てたから、あんたが自分に残した唯一のものだからって・・・・」

「どういう意味だ?」

予想はついたが確認のためにもきちんと聞いておきたかった

尚隆が彼女と過ごした間に買った、服や家具、食器等は全て彼女の部屋に置いてきたはずだ

「何言ってんだよ!!あんたが指示したんだろう!!ねーちゃんがあんたに関わった証拠を一切残すなって!だからねーちゃん全て失ったんだ、今までの全て!アパートだって引越しさせただろう!!!」

自分の知らないところで彼女と自分の間に確実に溝が出来るように仕組まれていたことを痛感する

唐突に昨日彼女が自分に投げた言葉が蘇る

<あなたがそうさせたくせに!!!!>

アレはこのことか・・・・間抜けな自分に嫌悪感すら覚える

「ねーちゃんのこと思うなら二度と近づくな!!」

叫ぶようにそう言い置いて祐は公園を後にした

「おい!祐!!」

祐を追いかけるべきなのか、尚隆をどうにかすべきなのか判断できずに六太は困っていた

「あ〜お前ももう帰れ」

空を見上げて力なく呟く尚隆にさすがの六太も少々心配になってきた。殺しても死なないようなこの男がここまでダメージを食らっているのなんぞ初めて見る

「大丈夫かよ」

何が大丈夫なのか六太もわからないがそんなことしか言えない

「ん〜なんとかな〜。いーからさっさと帰れ。あー当分あいつはほっといてやれよ〜」

「わかった」

「じゃ〜な〜」

ヨロヨロと公園を後にする尚隆を見送って、六太は盛大な溜息をついた

明日あたり帷湍達から盛大に文句言われるに違いないだろう

一概に自分に責任がないとは言い切れないので、反論するのも憚られる

「頼むから、さっさと立ち直ってくれよ〜」

六太の願いが届いたかどうかは神のみぞ知るというやつである









言い訳

う〜む確実にラブコメじゃなくなってきている・・・・え〜予想通り来週も続きます(笑)

学校離れるとヒロインさんと関係ないところで話が進んでしまうわ〜。学校だと副理事長の暗躍が著しいですが

とりあえず少しづつではありますが真相究明されつつあるかと・・・

ら・・・来週のタイトルをどーしよう(泣)




 

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