知っているはずだったわ

あの人がどういう人間か

でも何事にも認識不足ってのはあるものよね




逃れられない火曜日




ああ、またあなたのお出迎えですか、副理事長。本日朝早くからご苦労なことですね

言葉にする気力すらなくてちらっと視線を投げれば、あの似非爽やかな笑顔で返された

「今日のご機嫌もよろしくないようだね」

「昨日と変わりばえしない台詞で申し訳ありませんが、お暇なようですね」

「こちらこそ昨日と同じ台詞で悪いが、暇なわけないじゃないか」

「でしたら今すぐ副理事長室でお仕事なさったらいかがでしょうか」

「そうしたいんだが、なかなかそうさせてくれない事情があってね」

お互い笑顔なんだが纏う空気が寒々しい・・・

私はやっぱり昨日と同じように溜息をついて歩き出した

副理事長も同じく並んで歩き出す

「いや〜実はね、彼が何事か企んでいるらしくてね」

この場合、彼が誰を指すのかは明白であるが

「いったいどなたのことを仰っていらっしゃるのかわかりまねます」

副理事長が目を細め何か言おうとした時

「やけに仲良くないか?お二人さん」

よく知った人間の少し声が背後から聞こえた。不覚にも一瞬だけピクっと肩を揺らしてしまった

「遅かった・・・・・」

振り返った副理事長の言葉はそこで止まり、怪訝に思って振り返ったもそのまま固まることになってしまった

「なんだ?どうかしたか?」

どうかしたどころじゃないでしょう・・・・あなた正気なの?

衝撃からいち早く立ち直ったのは副理事長のほうだった。さすがに長年、あの男の部下だったことはあるわね

「尚隆・・・・・君・・・・・」

だが、その彼を持ってしても言葉が続かないらしい・・・・まあ、気持ちはよくわかる

「ん?どーだ、似合うか?」

似合うかと問われても、この場合、何を基準にすればいいのやら


目の前にいるのはどこからどうみたってウサギだ。訂正、ウサギの着ぐるみだ。色はピンクの


そんな物体が、やあ!とばかりに片手を上げているのだ、しかも聞こえてくる声はいやというほど聞きなれた声

深々と頭を垂れた私は大きく深呼吸して、震える指先できつく拳を握ると

「どこの世界に大学にウサギの着ぐるみでくる人間がいるのよっっっっ!!!!!!!」

衝撃からベクトルかがそのまま怒りに向かってしまったのだろう、それはそれは素晴らしい大声で叫んでくださった

「ここにいる〜♪」

叫んだために肩で息しているとは対照的にピンクウサギの着ぐるみ・・・・もとい、尚隆はそりゃあもう楽しそうに返事をした。今にもスキップしそうな勢いだ

「・・・・副理事長、私は知りませんから」

はこめかみを押さえながら一目散に図書館に向かった。これ以上関わっても頭痛の種が増えるばかりで減ることがないのは明らかだったから







「ひどいな〜折角ののために選んだんだが」

の後姿を見送りながら尚隆は腕組みした、格好が格好なだけに笑えるが・・・・

「尚隆・・・・お前何考えている?」

副理事長も同じくこめかみを押さえて溜息ついている

「色々と、これでも結構真面目に考えて行動しているんだがな」

その姿形のいったいどこをどうしたらその結果に辿りつくんだ!!ということを突っ込みたかった副理事長だが、突っ込んだところでこの男が真面目に答えるわけがないことをよ〜く知っていたので沈黙を通した

「うわっ!なんだよあのウサギ!!」

ようやく声を上げるだけの度胸のある学生が来たらしい・・・

「よう!お前か、課題やってきたか?」

「って!その声は小松先生!!!」

「うえ!!マジで」

「マジだよ〜」

中身が誰か分かったことで学生はホッとしたように一気に尚隆・・・ピンクウサギを取り囲んだ

着任してから一週間しかたっていないにも関わらずこの男かなり学生に人気があったりする(男女問わず)

「先生、その格好で講義するつもりじゃないですよね」

「そのつもりだ」

「本気ですか!!」

「ふふふふ〜甘くみるなよ!こう見えてかなり高機能なんだな、コレは」

「すげ〜中見せてくださいよ〜」

「俺も!!」

「ば〜か、そんなに簡単にネタばらしたら面白くないだろう」

そういう問題なのか?それでいいのか?誰か突っ込むべきじゃないのか?

だがしかし、哀しいかな工業系大学生のさがとでも申しましょうか、常識云々よりもその構造云々のほうに気持ちが行くものらしい・・・・

「おお、そうだった。そういうわけで事後処理頼むぞ」

学生に囲まれた輪の中から遠くで眉間に皺を寄せている元部下にして現雇い主に片手を上げて頼む

「頼まれてもまったく嬉しくないんだがねぇ」

「そう渋るな、それなりの見返りはちゃんとする」

「その言葉違えるなよ」

深く溜息つきながら副理事長は念を押して、煩いぐらいにくるであろう苦情、批判に対応するために総務に向かった。総務の人間では対応しきれないことは明白だったからだ


「今日、一日私の前でピンクウサギの話題を出したらモノが飛びますから」

図書館に駆け込んだが上司や同僚に挨拶よりも先に言ったのはその台詞だった

言われたほうは当然のごとく首をかしげたがあまりの勢いに全員がとりあえず頷いた

そして、わずか30分後に事の次第を知ることとなったのだ

全員、どうしてあの小松助教授があんな格好しているのかひっじょ〜に知りたかったのだろうが、思わずという感じでポロっと同僚が「ピンクウサギ・・・」と口にした途端、間髪いれずに文庫本が飛んでくるという事態が起こったため(ちなみに投げつけられた同僚はかろうじて避けたため無傷だったが)全員沈黙を守ることにした。誰だって我が身は可愛いもんだ

そんなある意味、緊迫した空気の中やってきたのは、もはや見慣れてしまった副理事長だった

「やあ、ご苦労様」

相変わらずの似非くさい笑顔で図書館の女性陣をうっとりさせながら進んでくる彼には顔を上げることすらしなかった

「忙しい中、申し訳ないんだけど、さんいいかな?」

「忙しいと思われるんでしたらご遠慮していただけませんでしょうか」

副理事長の笑顔にまけてないだろうと思われる寒々しい笑顔全開で返してあげた

何であんたは一々ここまでやって来るのよ!!大人しく仕事してればいいのに!!

そのやり取りに上司と同僚の顔色が面白いぐらいに一気に変わった。相手は曲がりなりにも副理事長、つまりは雇用主なわけだし

「うーん、そうしたいんだけどね。君忘れているようだし」

「はっ?」

間抜けな問いかけに、副理事長はそれこそ満面の笑みで楽しそうに

「君、小松先生のTAだよ」

その一言には一気に血の気が引く思いがした

そう言えば先週そんなこと言われて強制連行されたが、あれから一度も呼び出しがなかったからすっかり忘れていたわ

「それで、ご用件とは?」

「うん、だからそれ。小松先生がお呼びだよ」

「副理事長を使いに出すなんて小松先生はお偉いですわね」

机の上を片付けながらそんな嫌味を言ってみるものの

「な〜に単に私が気分転換したかっただけさ。それに今の彼が動くと学生も一緒にゾロゾロついてくるんでここ(図書館)大変なことになるよ」

まったく問題にせず綺麗にスルーしてくれるあたり、やっぱりただもんじゃないわよね、顔色一つ変えやしない

そのまま、なぜだがついてくる副理事長と共に小松助教授の研究室に向かったは再びピンクウサギを目にすることとなった

「ひょっとして今日一日ずーっとあの格好なんですか、小松先生」

「そうなんだよ、すごいだろう?感心するよね」

いや、そういうことで感心されても・・・だいたい講義する側があの格好で許されるもんなの?

「かなり生徒受けはいいから心配ないよ」

そういう問題なの?これって・・・・

学生に囲まれどこか楽しそうなピンクウサギに声をかける気すら起きない

「お忙しいみたいですから、私は失礼してよろしいでしょうか」

ことさら固い表情と冷たい声でそう言う、私だって暇なわけじゃないわ

「小松助教授、さん帰ってしまいますよ」

さして広くもない部屋全体に聞こえるような音量でこの副理事長はいらんこと仰ってくださった。人が折角、静かに帰ろうと画策しているときに!!

おかげで部屋中の視線が一斉に私に向き、思わず副理事長の背に隠れてしまった

あれだけの視線に晒されたら普通の人間は怖気づくわよ!

副理事長の背後からそーっと様子を伺おうとしたの視界は目の前にきていたピンク色一色に染まった

「なっ!!!」

驚いて後ずさろうとしたの腕をその物体はしっかりと捕らえていた

「ちょっとこい!!」

「なんなんですか!!離してください!!」

力いっぱい抵抗してみるものの全然まったく歯が立たない

それでも最後の抵抗とばかりに腕を振り回してあがいてみる

「ちっ・・」

小さく舌打ちする音が聞こえ、ようやく腕を離されたと思った次の瞬間、の視界は反転し再びピンク一色に染まった

「きゃああ!!」

「大人しくしてろ、落とすぞ」

軽々と肩に担ぎ上げられて、思わずそのピンクのウサギ頭にしがみついてしまった

「それでいい。後頼むぞ」

「この貸しは高くつくぞ」

「あとで倍にして返してやる」

「ちょっと!!なに考えててるのよ!!降ろして!!」

「あ〜もう、少し大人しくしてろっての!!」

そのままを担ぎ上げたままピンクウサギ・・・尚隆はさっさとその場を後にした

が何事か言い募っているのが廊下に虚しく響き渡っていた

「やれやれ・・・痴話喧嘩もここまでくるとコメディだねぇ」

事態の成り行きを呆然と見守っていた学生達は副理事長のその一言で例の噂は本当だったのだと確信を得たのだった









言い訳

今更ながらに人称が一致しないんだよね〜最初は三人称だったはずなんだけどな〜

ともかく!!ようやく出せました!!ピンクウサギ!!初っ端から暴走しまくってますけど・・・あの格好でヒロインさん拉致ってますから(泣)

カッコいい尚隆像をお求めの方にはすいませんですが、当分の間うちの尚隆氏はあの格好です・・・すいません・・・

次回はピンクウサギでハワイアン?がテーマです




 

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