あの人を甘くみていた

どういう人間か分かっていたはずなのに

最後の最後でこーなるとは思わなかったわ

それってどーよ?って感じです(女子高生風に)




ひねくれた王子に見初められた姫君の苦悩8




えーっと確か私は、私の学生生活が思いっきりかかったレポートを教授に提出して

私に援助を申し出てくれた奇特な足長おじさんに会うために

絶対、自分の意思と財布じゃ立ち入らないであろう高級ブティックで着せ替え人形よろしく仕立て上げられ

車に押し込まれて連れてこられた先がここだった

そうしたら

なんでだか

「掛けませんか?そのまま立っていてもどうしようもないでしょう」

目の前で平然と言葉を紡いでいるのが

あなたなんでしょうか?


「ご説明しましょうか?」

「よろしくお願いします」

言われるままに席につき、正常に機能していないであろう言語中枢を叱咤しながら言葉を発する

はっきり言ってそれ以外の行動はすでにフリーズしてます・・・・

「そうですね、どこから説明したらいいのでしょうか?」

最初っから、全部まとめて逐一残さず説明して欲しいです

「最初から説明したほうがよいみたいですね」

言葉にしなかったが顔に出ていたらしい、私は無言でコクコクと頷く

「最初に私と出会った時のことを覚えていますか?」

忘れようがない・・・悪夢のような出会いだ、できることなら忘れ去ってしまいたい

「例のレポートを教授から見せられた時。自分とよく似た観点で物事を考える人だと興味が沸いたんです」

さようですか、興味だけで終わらせておいて下さるともっと良かったんですが・・・

「その人物が奨学金が打ち切られ、学業を断念しなければならないと聞いた時、惜しいと思いましてね。教授に頼み込んで援助できるようにして頂いたんです」

そこまで話が進んでようやくは言葉を出せるまでに回復した

「そう!そのことよ!!なんでわざわざ」

「落ち着いてください。言いましたよね、あなたの才能をここで失くすのは惜しいと私は思ったと」

「だけど・・・・・」

「無論、そのままポンとお金を出しても良かったんですが、それではあなたは納得しないでしょう?」

その通りです、むしろ得体がしれないので絶対断った!!

「ですから、そのレポートを条件として出したんです」

なにか釈然としないものを感じるんだが・・・・気のせいか?

「援助するといっても奨学金と同じように思ってもらえればいいんです」

「それは、つまり返還の義務があるってこと?」

「そうです。ただし、今回はすべて私個人のお金ですから、返還内容は私が決めさせて頂きます」

フッとあきらかに何かを企んだ笑みを見せられ、は本気で逃げ出そうと考えた

「ああ、そうですね、まず条件を確認しておきましょう。あなたの学費、及び生活費などは全てこちらで負担しましょう」

「はい?学費だけじゃないんですか!!」

「あなたにアルバイトでもさせて生活費を稼がせるなんてことはさせませんよ」

むしろ私としてはバイトして生活費を稼ぎたいです・・・・・

「ですがこれだけではおもしろくありませんので」

誰がだ!誰が!!おもしろくなくて結構ですとも

「あなたが提出する論文が何かの賞などをとればその重要度に応じて清算分から差し引きましょう」

えーとつまり何かの賞を(それも名が知れ渡っているほうが尚更OK)とればその分は返還しなくていいってことね

「相殺しきれなかった分は?」

にっこりと微笑む彼の口から発せられた衝撃の内容に私が叫び声をあげるまで、それほど時間はかからなかった







「教授、大変お世話になりました」

「まーったくです。君には色々なことで驚かされというかなんというか」

溜息交じりの教授のそんな言葉に朱衡はいつもの胡散臭い笑顔を見せた

「ところで今日、彼女はどうしたんですか?」

挨拶にくるなら二人一緒にくるだろうと思ってましたが、との問いに

「今頃、必死に荷造りと友人達への別れの挨拶に奔走しているでしょうね」

「・・・・・今日中に連れて帰るつもりなんですね」

「無論です。ですからこうして教授にご挨拶にあがったわけですよ」

朱衡は本日からアメリカ長期出張が予定に組み込まれていた、タイミングいいのか悪いのか、の短期留学も昨日で無事終了である。これ幸いとばかりに朱衡はと共に向こうに渡ることにしたのである

に拒否権などもはや存在していなかった・・・・いや、あるんだけど確実に負けは目に見えている

「彼女には全部話したんですか?」

笑みを深くしただけで何も言わない朱衡に

「彼女にとってこれが良いことなのか私には判断できませんが、後は君の陰謀に気付かないことを切に祈ってますよ」

そういう教授の口調は穏やかだが、どこかトゲがある

「おや、差し出がましいことをしましたか?」

「いや、いや、優秀な生徒が学業を断念しなくてすむことはいいことだからね。ただ、うちの大学が彼女を特待生として受け入れたいという打診を君が綺麗さっぱり握りつぶしたことに彼女が気付かねばよい、と言いたかっただけだよ」

「ご存知でしたか?仕方ありません、他に渡すつもりはなかったんですから。このことはどうぞ内密ねがいますよ、教授」

この大学の特待生ともなれば全ての費用は大学側が出し、しかも学生がその費用を返還する義務もない。つまりが朱衡の援助を受けることも、その返還のために苦悩することもないわけで

「一つ聞きたかったことがあるんですがね?」

「なんでしょう?」

ゆっくりとした足取りで正門へと向かいながら教授はためらいがちに口にした

「ひょっとしてひょっとしますが・・・・彼女がこの大学に来たのも?」

そこから先はさすがに言葉にならなかったが、朱衡はただ沈黙していた

「肯定ですか・・・・」

その沈黙に肯定の意を汲み取った教授は溜息をついた

ようするにがこの大学に短期留学生としてやってくることが決まったこと自体、この男が裏で動いていたのだ。

朱衡がしかけた罠はの短期留学生候補の時点で動き始めていたのである

もっと深く追求すれば朱衡がに狙いを定めたのがどの辺ぐらいからなのか分かるであろうが、とでもじゃないがそんな恐ろしいことはする度胸は教授にはなかった

所詮、他人は他人、自分は自分である。自分に火の粉がかからなければ良い。というのが彼のモットーだったりする・・・・

教授は深く、深く溜息をつきながら

どうしてこうも変わった?ひねくれた?教え子ばかりができるのだろうと首をかしげたが

それが自分に起因しているとは彼はまったく考えていない。まあ類は友を呼ぶということである

この場合、彼は大元締めになるのだろうか?それは、それでかなり怖いものがあるのだが

「彼女のことをお願いしますよ。いい子ですからね」

「言われるまでもありません」

滅多に見れない柔らかな笑みと力強い言葉に教授は、にはすまないな〜と思いながらも肩の荷が降りたようなホッした気持ちだった







徐々に視界から消えていく空港

窓の向こう見えてくるのは目に眩しい青い空と白い雲

「えらく不機嫌ですね?」

隣で拗ねた表情のに、それとはまったく正反対の爽やかな表情で朱衡が尋ねる

「私もちゃんと教授に挨拶したかった」

「しかたありませんよ、時間がなかったんですから。私が代理では不満ですか?」

「不満だらけだわ」

「ほう?」

答えがわかっていながら答えを待っているという感じの朱衡の表情にムッとしながら

「なんで?どーして、私までこんなに慌ただしく日本を離れなきゃいけなかったの?私だけ明日の飛行機でもよかったんじゃないの?子供じゃないんだから飛行機ぐらい一人で乗れるわよ!」

「あまり大声で叫ぶと客室乗務員が飛んできますよ」

「しかもどーしてファーストクラスの席なんてとるのよ!!ついでに!なんで他に乗客がいないわけ!!!」

とてべつにファーストクラスが嫌いなわけではない、というか今まで乗ったことがないので比較のしようがないのだが、人間、分不相応な所にやられると身の置き場がなくてどーしていいのか悩むものである。

それにたぶん、いや確実にだが・・・の隣でにこやかに微笑んでいる男のせいで、客室乗務員がやたらに愛想がいいのもの怒りを助長していた。

これに人の目があればも大人しくせざるをえないので大人しくしていているが・・・

なにせここにはと朱衡しかいない

「出どころは同じなのですから、そんなに深く考えることはありませんよ」

「後が怖いのよ、後が・・・・」

「今回のこれは、サービスにしておきます」

なんだかいかがわしい台詞に聞こえるのは私の気のせいでしょうか?

余計なことは考えないようにしよう!とは窓の外に体ごと視線をむけた

朱衡はやれやれと肩をすくめると目の前に広げていた書類に目を通し始めた

多忙な重役さんは飛行機の中でも書類と格闘しなければならなかったのである




体に掛けられる肌触りのよい毛布の感触には目をさました

「あら、起こしてしまいましたか。申し訳ありません」

すまなそうに営業スマイル全開のお姉さんに大丈夫ですと手を振って隣を見れば、鬼の霍乱、晴天の霹靂・・・・すごい言われようだが、朱衡が眠っていた。

テーブルに書類を広げたままなのであえなく眠さの前に陥落したというところだろう

めっずらし〜人前で眠るなんてしそうにない人なのに。そーいえば私も初めて見るわ、この人の寝顔。私は何度も見られているんだけど・・・・

ああ、こうやってみればかなりいい男の部類には入るんだろうな。顔の形が整っていて、そこら辺の俳優とかより上に見えるもん。これで口を開かなきゃいいんだけどな〜ついでにあの胡散臭い笑顔もやめて欲しいわ。似非王子って私の意見は間違ってないわよね

は初めて見るいつもよりほんの少しだけ優しい印象を与える朱衡の寝顔に思わず見入ってしまった

軽く開かれた唇に視線がいったときはあの時のことを思い出し、一気に顔が熱くなった


いや、あれは夢であって・・・・ちっくしょ〜なんで思い出すかな、自分!!


訳のわからない恥ずかしさが込み上げてきたは悔し紛れにツンと朱衡の頬をつついた

起きるかと思ったが朱衡は微動だにせず、はホッしながらもおもしろくなって額から鼻梁へと指を滑らせた、その指先が少しだけ荒れた唇に到達したその時

「出来れば次からはお姫様のキスで起こしていただきたいものですね」

しっかりとの手首を拘束して朱衡が目を開けた

「騙したわね!!」

「失礼な、タイミングを逃しただけですよ。ちなみに日本では狸寝入りと言うんです」

「いつから起きてたのよ!!」

「そうですね、あなたが人の顔を凝視する少し前ですかね」

「それって最初から起きてたってことじゃない!!」

「そうとも言いますね。次回は是非お姫様のキスでお願いしますよ」

「そんなことは天地がひっくり返ってもないわよ!だいたいキスして起こすのは王子のほうでしょうがっ!!」

平然と(?)言葉を交わしているがは必死になって朱衡に拘束されている右手を奪還しようと足掻いていたりする。

しかし、たいして力を込めているようには見えないが朱衡の手から逃れらない

こういう時の男女差はけっこう大きかったりする

「おや?次からはキスして起こして欲しいんですか?」

そんな台詞と同時にグイッと手首を引き寄せられ、体ごと朱衡の腕の中におさまる格好になってしまった

ファーストクラスはこんな時に便利だ・・・・・

あまりの事の展開には固まってしまった、これ幸いと朱衡はの耳元で囁くように

「お望みならいつでもご期待にこたえますよ」

甘く全身に響くようなその声に、の思考は真っ白になり、言葉よりも先に気持ちのほうが反応した

声もあげず表情も淡々としたまま唯々静かに涙を零しはじめたに驚いた朱衡が慌てて体を離す。が肩はしっかりと捕らえたままだ

「な・・・んで、こんなこと・・・・・するんですか?からかって楽しいですか?」

流れ落ちる涙を拭いもせずに真っ直ぐに朱衡を見て、どこか悲しげな目で

「私じゃ遊びの相手にもなりません。他をあたって下さい」

一瞬、きつい眼差しを見せた朱衡は、再び今度はゆっくりと優しくを抱きしめ

「遊びのつもりはまったくないのですが」

噛んで含めるようなその物言いにの頭もようやく正常に働き始めた

ちょっとまて・・・今・・・なんて・・・えっ?えっ?

「あなたを泣かせてしまうつもりはなかったのですが、謝ります。ですが私はあなたのことを遊びの相手と考えたことは一度もありません」

何よそれ・・・そんなこと突然言われても・・・・私どうしたらいいのよ、頭のなかグチャグチャだわ・・・

「もう嫌!!離して!!ウソつかないでよ!!」

「嘘を言っているつもりはありません」

「信じられるわけないでしょう!!いつも何があっても平気な顔して、何考えているか全然わかんないし!!それに・・・・」

「それに?」

「肝心なことは何一つ言ってくれないじゃない!私一人ドキドキして情緒不安定に陥って、バカみたい!」

「そういうところも全部含めて、私はあなたが好きですよ。

初めて呼ばれた自分の名は、まるで他人の名前みたいに実感を伴わなかった

「あなたの気持ちが私に向くまで待とうと思ったのですが、その必要はなかったみたいですね」

どこか安堵した様子のその言葉には真っ赤になった

下を向いているのと、朱衡の腕の中ということでかろうじて朱衡に顔はみられていないが時間の問題だろう

、顔を上げて下さい」

お願いですから名前で呼ばないで下さい。あれほど呼ばれたいと願ったにも関わらず実際呼ばれると気恥ずかしくてしょうがない

再び囁くように名を呼ばれ観念してゆっくりと顔をあげると

どう表現したらいいのだろうか・・・・・ともかく普段の彼からは想像出来ない嬉しそうな笑みを浮かべた朱衡と視線が合った

「ゆっくりと距離を縮めようと考えていたんですが、まさかあなたのほうから飛び込んでくるとは思いませんでしたよ」

はい?何と仰いました?私、飛び込みましたか?

そこでようやくは自分はもの凄いことを口走ったことを自覚した


いや、まて!別に好きだ!とちゃんと言ったわけじゃない!!ただ、自分の中で消化しきれない思いが口に出ただけであって。あれは、そーゆー意味を含んでない・・・・わけでもないかな?


お嬢さん・・・・今更ですが結構熱烈な愛の告白してたと思いますよ・・・・


「私はもうあなたを手放すつもりはありません。いいですね?」

「最初っからそのつもりのくせに」

少し困ったようなけれど、どこか嬉しそうな表情でそう応える

「当然です、あなたを手に入れるのにどれだけ苦労したと思うんですか?」

いつものならその台詞に含まれたものに気付いただろうが、あいにく今の彼女はそれどころじゃなかった




彼女が事の次第を全て知ったのは、晴れて大学院を卒業し、朱衡の片腕として働き始めてから5年後のことであった









後書き

過去編終了

こんなに長くなるなんて思ってなかったんだけどな〜




 

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